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『クロハルメイカーズ 恋と黒歴史と青春の作り方』 砂義出雲 ガガガ文庫

 ガガガ文庫の『クロハルメイカーズ 恋と黒歴史と青春の作り方』読みました。

クロハルメイカーズ: 恋と黒歴史と青春の作り方 (ガガガ文庫)

《あらすじ》ガガガ文庫公式サイトから

 衝動だけで突き進め! 漆黒の青春と創作!

 必要なのは、好きなものへの憧れと衝動のみ!!「黒歴史を恐れるな」を合い言葉に、同人誌や動画などを制作している「創造部」。クセの強い部員が集まるこの部活で、湊介はあらゆるサブカルに精通する自称ハイパークリエイトプロデューサーとして部を統率していた……はずだったが、部活紹介のクソ映画がオタク知識ゼロのお嬢様・比香里の心を掴んでしまい――!? 純真なる新入部員の加入は奇跡か、新たな闇か。プライド、見栄、自意識、才能……不安と葛藤を超え、創作の道を突き進め!! 痛くも恥ずかしい、むき出しの青春群像劇開幕!

 

 すごい久しぶりにブログを更新します。

 著者は砂義出雲さん。三年半ぶりの新作です。デビュー作の『寄生彼女サナ』シリーズでは美少女化した寄生虫がヒロイン、次作の『天網炎上カグツチ』シリーズではネット炎上を力に換えて戦うヒーローなどといった、一見一発ネタにしか思えないような題材を扱っているんですが、話が進むと前者は寄生を「他者との関わり」に結び付け、後者はネット炎上を「世界を守るために傷つかなければいけないヒーロー」に結び付け、最終的にはいつも普遍的なストーリーやテーマを描いています。個人的にはそういう、奇抜な題材と真っ当なストーリーの組み合わせ、見た目と内容のギャップみたいなのってすごく「ライトノベル」的だと思ってます。

 今作は、前半はハーレム風でコメディタッチの謎部活もの、話が進むにつれて苦い青春ものの趣が加わります。

 

 あらすじにある部活紹介のクソ映画に「クソフラシツボドリル」というクリーチャーが(本文2行目で)出てきてあまりのクソさに笑いました。

 創造部の部員には3DCGモデラ―やイラストレーターなどいろいろな属性の女の子がいて、それぞれに好きなサブカルチャーのジャンルがあり、それがキャラ付けにもなっています。そのためかはわからないですが、キャラが好きな作品を語るシーンとかではほとんど実際の作品名が出てきます。この濃いオタクたちが集まった部活に、オタク知識ゼロの、お嬢様高校から転校してきた比香里という女の子が入部し、オタク文化に触れて馴染んでいくのが前半です。

 主人公の湊介は何も作らず「ハイパークリエイトプロデューサー」と名乗っているだけの存在。最初からわりとダメな人間だとわかるんですけど、後半、作品を作ることになり、追い詰められて迷走するあたりの言動がかなり痛々しくて、正直読むのがつらかったです(面白くないという意味ではなく)。でもやっぱりそういう間違えたり恥をかいたりするのもまぎれもない青春の一ページだなあ、と読みながら思ってました。そしてそれを乗り越えた先にあるクライマックスには本当に救われました。これはもう全創作者に刺さると思います。このシーンで心から「読んでよかった」と思いました。

 

 読み終えて、黒歴史を恐れず前に進んでいく主人公や創造部の面々には勇気がもらえました。めちゃくちゃおもしろかったです。比香里の事情もまだ書かれていないので、ぜひ売れて続刊を出して欲しいと思います。おすすめです。