『無双航路 転生して宇宙戦艦のAIになりました』 松屋大好 レジェンドノベルス
レジェンドノベルスの『無双航路 転生して宇宙戦艦のAIになりました』読みました。著者は松屋大好さんで、表紙のイラストは黒銀さんです。
話は、主人公の阿佐ヶ谷真くんは普通の高校生だったはずなんですけど、気がついたら宇宙戦艦のAIになっていた、っていうところから始まります。そこは少なくとも一万年後みたいな遠い未来で、今まさに戦争の真っ最中でした。初めはAIがウイルスに感染したと思われるんですけど、AIとして戦略を立てたりとか、元が人間なせいか普通のAIでは禁止されていることができたりして、協力して戦っていくうちにに艦長のお姫様やクルーたちからの信頼を得ていきます。
ぱっと見、異世界転生ものに見えますし、その要素もあるんですけど、ジャンルで言うとスペースオペラで、結構しっかりしたSFです。
まず主人公の一人称がひらがなで「ぼく」。SFっぽくてすきです。
題名に「無双」って入ってはいるんですけど、実際はボロボロの撤退戦です。主人公が目覚めたときにはもう敵地で包囲されていて、すでに味方の大半を失っています。艦長のお姫様っていうのも、本来の艦長が死んだから臨時でなっただけで、もともとは士気高揚のためのお飾りみたいなもんです。艦長を殺したのはおそらくスパイの破壊工作で、味方の誰かが敵と通じています。そんな状況なんでもうこの戦争に勝てるってことは絶対になくて、せめて自国まで生きて帰ろうとするっていうのがストーリーの軸です。でも周り敵だらけなんでAIの立てる戦略でどうにかするしかなくて、犠牲も出しながらのかなりギリギリの戦いです。そういう緊張感ある戦闘が見どころのひとつです。
それと、もうひとつおもしろいなと思ったのが、文章の視点が、戦艦の一人称ってところです。主人公は宇宙戦艦のAIなので、体を使った表現とか動作の描写がぜんぶ戦艦仕様になってます。例えば、人間ならショックを受けて額に手を当てる っていう動作になるところを、どこかの蛇口から水が一瞬だけ出るとか。ほかにも逆にAIのシステム上のことを人間の感覚で例えるとどういう感じかっていう描写もあります。後半では電子空間で起きていることが視覚的に表現されているところがあって、そういう工夫がある文章は、読んでいて想像するのが楽しかったです。
こういう描写は今の主人公がまぎれもなくAIだっていうことを認識するのにもつながっていると思います。ストーリーを通して人間だった記憶とAIである現在との間で自分や現実の認識がぐらつく感覚があって、それがとくにすごいのが最後のほうで、そもそも最初に主人公がなぜAIになったのかについてもSF的にきっちり理屈がつけられます。ここはすごいぞくぞくして、本当におもしろかったです。この一冊でキリのいいところまではいくんですけど、続く2巻への引きもすごい気になる感じで、予定では来年の一月に出ることが決まっています。おすすめです。
↓動画(内容は同じです)