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『異世界語入門 〜転生したけど日本語が通じなかった〜』 Fafs F. Sashimi  L-エンタメ小説

 『異世界語入門 〜転生したけど日本語が通じなかった〜』読みました。

異世界語入門 ~転生したけど日本語が通じなかった~

〈あらすじ〉BOOK☆WALKERより

言葉が通じる世界なんて異世界じゃない!? 異世界語を楽しく学ぶ物語登場

  気が付いたら異世界に転移し、見知らぬ家の中にいた八ヶ崎翠(やつがざき・せん)。

 チート能力を得てハーレムを作り、楽しい日々を送る――そんな異世界生活を期待した翠だったが、目の前にいた銀髪の美少女・シャリヤの発した声を聞き、愕然とする。

 彼女の言葉が分からない……? 転生した異世界では、日本語が通じなかった。

 翠は慌てて異世界語を学び、彼女とコミュニケーションを試みる。折しもこの世界は戦時下にあり、戦闘に巻き込まれた2人は、シャリヤの友人や味方らしき軍人と共に別の街への避難を余儀なくされるのだった。だがなんと、避難先で待っていたのはシャリヤとの相部屋生活!?

 異世界ハーレム生活を目指し、転移前の世界で先輩(その名も「インド先輩」!)に学んだ語学に関する知見を総動員して、異世界語マスターに挑む翠。文字・単語・表現を一つ一つ学び、徐々に意思の疎通を図れるようになってきた矢先、避難先においても戦闘は激しさを増していく。果たして翠は、異世界の言葉を使いこなしてハーレムを作ることができるのか?

 言葉が通じる異世界なんて本当の異世界じゃない!? 女の子と話したいという「超」純粋な動機で挑む異世界語習得ストーリー!

 

 

 全く知らない言葉をゼロから学んでいって、少しづつ相手の言葉が分かって会話ができるようになっていく過程がおもしろい作品です。

 

 異世界語については、この作者さんはもともと趣味でリパライン語という言語を作られていて、それを使ってこの小説を書かれたみたいです。言語はすごく作りこまれていて、語彙とか文法とか発音の規則とかもしっかりあって、実際に話すこともできます。世界設定も、作品中ではまだあまり出てきませんが、かなり作りこまれています。

 

 作品の性質上言葉を学ぶシーンが大半を占めているんですけど、主人公が異世界に来る前の知り合いにインド先輩って呼ばれている言語マニアの人がいて、その人から聞いたっていう言語習得の手法とか言語学的な知識も使って異世界語を習得しようとします。

 

 たとえば、知らない言語を習得するのに使う有名な方法で、紙とか土にぐちゃくちゃーと適当なものを書いてみて、相手から「何?」っていう言葉を引き出すっていうのがあって。それが分かればばいろんなものを指して「何?」って言うだけで物の名前を聞けるようになるので。で、主人公もそれをやってみると「Fqa es...... co'd lyjot?」って言われて。「co'd lyjot(ソド リュヨット)」が「何?」という意味だと思って、ためしに椅子をなんていうかをそうやって聞いてみるんですけどなんかうまくいかない。で、その後、リュエュトっていうのが「文字」っていう意味だったってことがわかって。つまりあのぐちゃぐちゃを指して「これはあなたの(使っている)文字?」って聞いていたってことです。

 まあそんな風に言語習得を本当にゼロから描いているのがおもしろいところなんですけど、もっと広く、コミュニケーションの過程が丁寧に描かれた作品だとも思いました。

 はじめはお互いのことが何もわからないし何を言っているかもわからない状態で、少しづつ理解していくけどそううまくはいかない。コミュニケーションがうまくできないっていう状況は私にとってはすごく共感できる要素でしたし、それでもがんばって相手の言葉を理解しようとする主人公はすごく応援したくなりました。

 

あと、この異世界は戦時中っていうこともあって、話の後半では主人公が危機的状況に陥ってしまうんですけど、その原因はやっぱり言葉が通じないことで。言語の習得、ひいてはコミュニケーションが主軸の物語で、ピンチになる原因がディスコミュニケーションっていうのも徹底しているなと思いました。

 

 まあ確かに異世界に飛ばされるっていう状況を考えたら真っ先にぶつかりそうなのは言葉の壁ですよね。たいていの異世界転移ものはチート能力とか魔法でなんとかなったりして言葉が通じる理由付けがされていることが多いと思います。でもたしかにすぐに言葉が使えるようになったり、何の説明もなく通じる作品もあったりして、このあたりは異世界転移ものっていうジャンルにリアリティがないってさんざんツッコまれているところですね。

 その点この作品はリアルな異世界を描いていると思います。

 でも、全ての異世界もので言語習得に文章を割いていたらそれこそこんな風に一巻終わってもまだまだ理解できてないみたいなことになるので、例えば冒険活劇とかハーレムラブコメが目玉なら、はやいところ言葉が通じるようにしてそっちに文章を割いたほうが全体としてはおもしろくなるはず。設定は作品の面白さのためにあると思うので、リアルだからいいという訳ではないんです。

 この作品は今までそういう物語にしづらかったところをメインに取り扱って、それを活かしておもしろくしているっていうことが本当に素晴らしいことだと思います。この作品があることによってライトノベルの、異世界ものの幅が広がっていますし。他にはあまりないタイプの作品です。おすすめです。